《出発の朝》

ベットから腕を伸ばして携帯を掴む。
「うーん、5時か、起きなきゃ」


ごそごそと這い出し、すでに準備の終わっているバッグを掴んでリビングへと降りる。

今日は全国大会参加のための移動日である。天気は晴天のようだ。


電車は9時前出発なのでまだまだ4時間ほど時間はある。
ネットをさらりとチェックしながら一人でパンをつまみ、

バイク用のジャケットを着込むと、そろそろ暑くなってきている外へと飛び出した。


明日・明後日と全国大会だ。
その前にすこしでも最後のこそ練がしたいと思い、バイクにまたがるといつもの駐車場に走り出す。

「このこそ練ですべての練習は完了だ。次に乗るのは本番当日だ。」

そう思うと、「もう一回、いや、もう一回」と今になって焦ってきてしまう。
いかに仕上がっていないか物語っているようだ。


※お世話になったCB750と最後の練習






しばらく練習したあと、自宅とは反対方向に走り出す。
5分ほどで近所の神社に到着した。



ここは町の氏神様で、我が家では自宅新築、TAKA3TAKA4のお宮参りからお世話になっているところである。

お参りをすませ「吉」のおみくじを握りしめて自宅に帰ろうとすると、ぱらぱらと雨が降り出した。
「ほう、龍神さまの激励の雨かな」
しかし、雨脚はどんどん強くなる。

熱烈な空からの激励を受けた後自宅に到着。激励は10分ほどで終了した。






自宅に戻ると、夏休みの無い受験生であるTAKA3がごそごそと学校に行く準備をすすめている。
リビングでネットを徘徊していると、学生服に着替えたTAKA3がめずらしく横に座ってきた。
何も語るわけでも無い。ぼーっと座っている。

しばらくすると、おもむろに「じゃ、学校にいってくるね」と席を立った。

「はーい行っといで」と、振り返ることなく返事をすると、リビングのドアをあけたところでTAKA3が一旦止まった。

「大会がんばってね!」

一言だけ言うと、振り返ることなく彼は外へと出て行った。


《鈴鹿へ出発》

JR
に乗り、途中で一般A代表選手と合流し博多駅へ。
弁当とビール(これ大事!)を購入し、全員そろったところで新幹線へ。



「大会に影響が出るので12以降は飲まない」と告げると、「じゃ、早く飲まないとね」とのつっこみで、
結局、12時までの1時間半で1.35リットルを消化した。

途中、名古屋駅で電車を乗り換え、白子駅に到着したときはまさに晴天!明日からの大会が思いやられる。

駅前のコンビニで買い物をして、タクシーに便乗して鈴鹿サーキットに向かう。
「そういえば、8耐のとき、ウイナーを乗せましたよ!」
タクシーの運ちゃんが走りながらこう言う。

それは縁起がいい!なにかご利益があるかもしれないと思い、去年の大会を思い出していた。


「見えた!」

シンボルの大観覧車が見えてきた!
またここに帰ってきたぞ!


サーキットの駐車場を抜け、ホテルの受付に向かう。
と、雨がぽつぽつと・・・

まあ、龍神様も律儀なもんだ。よほどTAKA2が心配と見える(笑)

※龍神様ネタが分からない方は昨年の全国大会レポートを参照ください。



※またまた帰ってきたぞ!


いつもどおりの前祝を行い、今日は早々にベットにもぐりこむ。

さて、明日はいよいよ競技開始だぁ!










《大会初日》

大会の朝は早い。と、今年も言ってみる(笑)
5時起床でコースの下見に出かける。

しかし、5時をすぎるともう外は明るい。じりじりと日も射してきた。

コースに到着すると、分かっていたことだがコースはまだほとんど作られていない。

法規走行コースではみんなが攻略法を話しあっている。
しかし、でかバイク(400ccおよび750cc)の本日の競技は低速技能であり、法規走行は二日目である明日の競技だ。
今、法規走行の話をしたところで頭に入るはずもない。

ということで、法規の微妙なところは本日競技の高校生クラスと女性クラスに人柱になってもらい(笑)
私は傾斜地のすべり具合だけをチェックした。

朝食後、すこし時間が取れたが、お土産を買う気にもなれない。
部屋にもどってゆっくりイメージトレーニングでも行うこととする。


※画像提供、某コーチ!もうっ、こんなんばっかり撮ってぇ。




しばらく休んだあと、大会の受付を行いその足でコースの下見に行く。
本日の競技順に下見の感想は以下の通りだ。

1.スキットプレート
  いつも通りではあるが、昨年よりすこし弱気である。
  というのは、昨年は見れば見るほど行けないはずはないと思えてきた。
  が、今年は5番パイロンが少しきつめに見える。
  いつも通りに行けば問題ないが、バイクに瞬時になれるかどうかが勝負の鍵だ!

2.ブロックスネーク
  これもきつい。
  規約では、ブロックの「振り」は10cmずらしのはずだが、どう見ても12cmはずれている。
  まあ、特練ではこのくらいはやっているので問題はないだろう。

3.レムニー
  相変わらず「あまあま」でゆるいセクションである。

4.応用千鳥
  ん?昨年と同じ?
  であればいけるだろうと思うのだが、なぜか幅が短く見える。

5.一本橋
  相変わらず短い(笑)
  いや、本当に50cmほど短く見えるのだ。(笑:全国同じ長さです)
  もちろんそれでも楽勝なはずなのだが、私の場合、
  昨年が20.5秒。その前が20.1秒である。
  鈴鹿のこの場所は時間の進みも遅くなるようだ。

6.傾斜地
  パイロン幅がちょっと短いため楽勝とは言えない。
  が、最悪、2番パイロンに当てるつもりでいけば5点内では問題なく通過できるだろう。


その後、開会式を終え、いよいよ競技開始となる。





《競技開始!》
いよいよDブロックから競技が開始される。

「今年の福岡は、団体での上位を目指します。
したがって、個人成績は度外視してでもチーム戦に徹してほしい」


これは、特練でもコーチから言われていた言葉である。
どういうことかというと、個人優勝を狙うのならばどうしても無理を承知のライディングが必要となる。
うまくいけば良いが失敗すればチーム全体の順位が著しく落ちてしまう。

チーム順位を重視するなら無理をせず、パイロン一本当てて最小減点を目指すほうが
絶対にセオリーだ。(多分、団体優勝常連チームのあそこならそうすると思われ)

しかし、これでは個人の優勝は難しい。
安全パイで優勝できるほど全国大会は甘くはない。

「一人減点40点以下。これがノルマだ」
これもコーチの言葉である。
一人40点減点であれば、最終チーム点数は3840点となる。
これはお立ち台を目指せる数字だ。

が、これを額面通りに受け取るわけにはいかない。
チーム内最多出場の私はできるだけ減点を少なくし、他のメンバーの負担を軽くする必要がある。
また当然それを期待されている。

であればDブロックの私に課せられたノルマは「減点ゼロ!」だ。




D
ブロック最初の競技はスキットプレートだ。
「けっこう難しくてみんな失敗してますよ」と教えられた。
見てみるとたしかにかなりの選手が苦戦している。

しかし、当然ながら数人の「できる人」はできている。
私の敵はこの「できる人」なのだ。

順番が回ってきて試走(コースの周りをゆっくり回ってくる)を行ってみる。

借りているCB750のおかげで、ハンドリングやブレーキそれにサスの感じに違和感はない。
が、最終型の特徴である1000回転以下での急激なトルクの落ち込みはない。
まあ、良い方に違うわけだから問題ないだろう。

ゆっくりとスタート位置に着く。
目の前では女性選手がアタックしているが、目で追うこともしない。


ほどなく私の順番がめぐってきた。

「準備はよろしいですか?」
いつものTAKA2スイッチ「スイッチオン」の呪文の言葉だ。

「はい、お願いします」と正面を向いたまま答える。





「用意・・・・スタート!」

2010
年が始まった!!

「満点だ!」

自分に言い聞かせてクラッチをつなぐ!!









《呪縛・疑心暗鬼》


いつも通りにゆっくりと車体が動き始める。
クラッチの状態を確認しながら右マーカーとタイヤ一本分開けたラインで走る。

第一パイロンに接近し、第二パイロンを少しやりすぎなくらいに巻いたあと速度を落としてハンドルを左に切る。
「あっ」
バランスを崩した。10cmほど前に出る。

どうか?いやまだ大丈夫だ。第三パイロンを巻きながらフルロックでゆっくりと曲がりきる。

「ここが勝負だ!」
速度を落として右にハンドルを切ろうとしたとき、
「やばい!」
ふらつく。
いや、アクセルをあけてしまい、前に進んでしまう。

いかん!このままでは第五パイロンがクリアできない!!
右にフルロックするが、どう見ても第五パイロンど真ん中を通るラインだ。

どうする!?

減点40点が頭をよぎる。

仕方がない、スキットではご法度であるが、リーンアウトでバイクを右に倒しこむ。
当然滑りやすくなり危険な方法だ。

もしもの時のため、特練では何度かこの練習をやってきた。
まさか本番でやるはめになるとは・・・情けない。

体は外に出しているが、それほどバンクしていないのは百も承知である。
でもやらないよりはましだ。

滑らないように、また数ミリでも前に進まないようにバイクを停止させるつもりでゆっくりとバランスを取る。

これで1cm小さく回れればそれでいい。そんな世界である。

5番パイロンにバイクが向かっていることは審判員も全員気づいている。
周りからパイロンを覗き込んでいる。

当たるか?いや、タイヤがパイロンに乗るか?

ここで私は「乗る」と判断する。
となると、乗った瞬間に車体は大きく右にバランスを崩す。

乗ると同時にバイクを起こす必要がある。

「どうせ乗るならパイロンぶったおしたって同じ5点だ!」

じっくりと進む。センチ単位で5番パイロンに近づく。

「ここだ」
パイロンを踏むと同時にバイクを立てる。

ほんの数ミリ(だと思う)パイロンに触った状態でそのままゴール。あと1cmほど足りなかった。

「はい!粘り勝ちですね。パイロン接触1で減点5だけですみましたよ」
審判が頑張りをたたえてくれた。

だが、減点5だけ?すんだだって?
いや、この減点5は私にとって冷静さを十分失わせるものであった。







《セルフコーチ登場!》

次の競技はブロックスネークである。
とりあえず移動はスタンディングで感覚を思い出すようにするが、頭の中は先ほどのスキットのミスで一杯だ。

「どこが悪かった?いや、それは分かりきっている。アクセルとクラッチだ」
頭の中ではスキットを走っていた。

スタートラインに着くと審判から「準備はよろしいですか?」とたずねられる。

「い、いや、すいません。ちょっと待ってください。今思い出しますから」


過去、汗が目に入り待ってもらったことはあるが、心の準備が間に合わずに待ったをかけたのは多分始めてだ。
あきらかに動揺している。

「いかん、こんなときは・・・脳内セルフコーチだ(笑)」
早速、脳内に住んでいる(笑)セルフコーチを呼び出す。
セルフコーチングは勝負のときに最高のポテンシャルを引き出してくれる技法です。
すべてのステージで有効ですので、勉強されることをお勧めします。

瞬時にコーチが出てきてこう言う。

「あーあ、満点での優勝は逃したねぇ。ま、995点優勝でもかっこいいよ。がんばりな。
反省会は夜にでもやれ!


そうだ、まだ始まったばっかりだ。

すっと気分を落ち着け、ブロックを眺める。この間、5秒程度。

よし行ける!

ブロックで落ちるわけがない!見れば見るほど簡単に見えてきた。

「はい、お願いします」

「用意・・・スタート!」旗が振り下ろされる。

簡単だ!

あっさりとゴール。
タイムも「9秒・・」まで聞いてすぐに無視。
タイムで失敗しているわけがない。なぜか自信がある。




気分は「はいお次!」レムニーだ。

これも超簡単だ。
がんばる必要もなくするりとクリアする。





ゆっくりとバイクを待機位置に戻し、「ごめんね、へたくそで」とタンクをなでてバイクのエンジンを停止した。

早速、リアルなコーチ(脳外コーチ(笑))に報告をする。
「ま、5点ならOKやね」
そういってくれるが、多分コーチは怒鳴りつけたい心境だろう。
「でもいらん5点やったよね」私が声をかけると。

「うん、そうやね」とコーチはぽつりと答えた。


○D
ブロック終了現在、累積減点5点










《焦り》

正直言うと、チームメンバーの走りを応援する余裕がない。
「俺もがんばるからみんなもがんばってね」
そんな気持ちで次にアタックするCブロックの他県選手の走りを見る。

そんなとき、高校生クラスの選手が戻ってきた。
「すみません」青ざめた顔で謝っている。

実は大ぼけで40点減点をくらってしまったのだ。

「まかしとけ、おまえの穴埋めは私とアリさんでやってやるから、もう次はするなよ。」

精一杯の強がりでえらそうなことを言ってみた。


実はもう一人の選手もすでに減点30点になっていた。
一番減点が多いと思われるCブロックで、悪名高いZRXでの点数と思えばそんなに悪いわけではない。
が、彼の実力を考えれば程遠い点数である。

「よし、俺が踏ん張らないといかんぞ!」
自分にもう一度「喝」をいれてCブロックに挑む。

C
ブロックの攻略はこう考えた。
・応用千鳥
昨年と同じサイズのようだ。しかし、今年はなにかが違う。
他県の選手もかなり苦戦している。(もちろん優勝候補と思われる選手は、みんなクリアしている)
万が一にも最大失点はゆるされない。

となれば白線からは一定の距離を置いて走り、貯金(ラインの余裕)がなくなったら
パイロンを一本、派手にぶったおして余裕のラインに復帰しよう。
これなら5点減点で済む。

・一本橋
これは作戦もくそもない。ただ20秒以上粘るだけだ。狙いは23秒あたり。

・傾斜地
これも無理は禁物。
真ん中のパイロンをなぎ倒せば楽勝で5点減点で行ける!

C
ブロックは10点マイナスと計画する。



《呪縛再び》

バイクを受け取り、応用千鳥のスタートラインに着く。
1本倒す気でいれば幾分気分は楽である。

「用意・・・スタート!」

ゆっくりと白線に余裕をもって進入する。
右ターン。左ターン。
ん?思ったより余裕がない。
右ターン。
やばいかも、次やるか?
左ターンで思いっきりパイロンをなぎ倒す。
が、思ったほどラインの挽回はできない。
意識的になぎ倒すというより、無抵抗にパイロンに当たったという感じだ。

あれれ・・・
するするとバイクが前に出る。

「いかん、やばい」

右ターンのハンドルの切り始めが遅れた!

え、また踏むのか?

じわりとパイロンに近づく。
本当に1cm5mm?の差で前タイヤがパイロンに触る。

うわぁ!やっちまった!

何のためにわざわざパイロン倒したんだ!

「ゴール!パイロン接触2回で減点10点!」

はい、TAKA2、白い灰になる。










しかし、落ち込んではいられない。
すぐに一本橋だ。
いつもどおりに走るがタイムは20秒7(爆)!!

ある意味、全国大会3連続で20秒台というのは神業である。


そして本日最後の競技である傾斜地をアタック。
のどから手が出るほど減点ゼロが欲しい!

じわりと傾斜を上ってみる。

ん?なんかいいぞ!いけるかも!
早速作戦を変更して減点ゼロを目指すこととした。




白線を気にしながらも早めにじっくりと降りる。
ばっちりだ!

が、結局、第二パイロンにかるくタッチして予定通り5点減点となる。(何だったんだ?)

一日目最終競技は、なんとも納得の行かない計画通りとなった。

一日目終了現在、累積減点20点








《焦り》

一日目の競技が終わり、夜には全関係者が集まり立食パーティとなる。
これに先立ち、パーティ会場入り口に一日目の成績が張り出される。


福岡県の成績は9位。最低目標の一桁にギリで残っている。
私の点数はマイナス20点。順位は6位タイである。
とはいえ、6位は3人いるわけで、8位と言ったほうが現実的だ。

大会前の私の目標はもちろん団体・個人ともに優勝ではあるのだが、
現実的な目標としては、団体戦は片手。個人では表彰台(3位内)であった。

しかし、一日目の結果をまざまざと見せ付けられるとさらに現実的な目標にダウンせざるおえない。

とにかく団体戦はこの順位をキープ!
女性クラスと高校生クラスは、バイクの性格上二日目はさほど減点がないだろう。
問題はでかバイクチームがどこまで踏ん張れるかだ!

そして私の目標はとにかく昨年より一つでも順位をあげること。すなわち5位。
最低でも入賞(8位以内)は死守しなければならない。

他県の点数を見ると、かなりばらつきがある。

昨年は一日目が終わって減点ゼロが7人もいた。その中の一人は私だった。
しかし今年の減点ゼロは一人だけ、そのあと5点、10点、15点と続き、私の20点減点と8人居るということだ。

果たして翌日の私はどのくらいの減点となるのであろう?
福岡のスクーターチームのタイムから私の予想タイムを割り出して考えてみた。

コンビネーションスラロームの基準タイムは20秒(20秒以下ならば減点ゼロ)である。原付は22秒だっけ?
これは無理すればなんとかなるタイムだ。

しかし、傾斜走行の基準タイムである20秒(原付は24秒?)は死ぬ気の危険走行でないとクリアできるとは思えない。
もちろん、5回ほど走らせてもらえば軽くクリアできると思うが・・・

接地覚悟でぶっとばしても20秒台後半になりそうである。

コーナーリングの3.3秒は多分楽勝だろう。法規はまったく予想がたたない。

ということはベストでもマイナス5点。トータル25点減点が現実的な限界である。

コーチに相談してみる。
「無茶はしないけど、ちょっとタイム狙っていいかいな」
ちょいと考えた後、コーチからの指示は「GO!」である。

正直言うと、県大会も含めて私はスピード系ではかなり余裕で走る。
一瞬で10点の減点を食らうスピード系、念には念を入れているわけだ。
だが、今回はそんなことは言ってはいられない。
もちろん、限界には程遠いタイムの安全走行ではあるが、すこしタイムにこだわって見たい。

しかし、今回の傾斜走行は自滅を誘う罠がてんこ盛りに見える。
広いコースで速度が乗ったあとのフルターン。
突っ込み勝負からのクイックターンはいとも簡単にステップが接地する。
また、ゴール前の直線は停止線オーバーの危険性をはらんだ設定だ。

そんなことはみんな分かっている。
しかし、優勝を狙うメンバーはあえてそこに挑戦せざるおえないだろう。
これによる自滅で上位者の半分は消えるだろうと予想できる。
一か八かの走行でたまたまうまくいった選手が勝者となる。

優勝がかかっていない私はある意味楽かもしれない。
あとは私が消えないようにするだけだ。



ほどなくパーティが始まる。
さすがに4回も全国大会に来ると知り合いも多少出てくる。
陽気にビールを酌み交わし料理をほおばるが心中は明日の競技でいっぱいいっぱいだ。

なんと言っても法規走行のイメージトレーニングが完璧ではない。
パイロンスラロームも傾斜走行もどうなるか心配だ。

すぐにパーティ会場の雰囲気にいたたまれなくなる。早く明日の準備をしないとまにあわない!

結局30分たたないうちに会場を後にし、一人部屋に戻る。
そして延々とイメージトレーニングを繰り返すこととなった。


明日走るのが正直怖い。
ここで失敗するわけにはいかんのですよ。








【二日目の朝】
この日も5時起床だ。
去年と同じだが、去年のようなお気楽モードではない。
準備もそこそこに一足先にコースへと向かう。

ブレーキングコースを見ると、助走区間が十分に取ってある。
また昨年のような圧迫感もなくきわめてやりやすい。
しかも何故かブレーキング距離は15mだ。
いつも12mで練習している我々にとっては楽勝であることはまちがいない。
が、一瞬のミスが取り返せない競技でもあり、また、十分に余裕があるため早すぎる進入によるミスの可能性もある。

コンビネーションスラロームは特段変わりがない。
が、実際よりパイロン幅が広く見えるので注意は必要だ。

問題は傾斜コース。
開けようと思えばいくらでも開けられるように見える。
こりゃーかなりの自制心をもって開けるところと抑えるところをしっかりやる必要がありそうだ。
安全にしかも早くという両極端な目標をどう折り合いつけるのか?

コーナーリングは楽勝である。
その気になれば3秒を切ることも可能に思える。
が、3.3秒内であれば良いのだから無理は禁物だ。

法規走行もしっかりと頭に叩き込む。
ここばかりは自信と不安が入り混じり、走ってみないと(結果を見ないと)予測ができない。

さて、いよいよ二日目の競技開始だ!

【悪夢】
私の出走まではまだ時間がある。
そこで高校生クラスを応援していたのだが、ありえないことにブロックスネークで落ちてしまった!
彼はがっくりと肩を落とし「すいません、僕のせいで10位内がなくなってしまいました」とつぶやいた。

まだ若い彼は全国の魔物に飲み込まれたようだ。
「しょうがない、最後のCブロックはばっちり決めておいで」と彼を送り出した。

さて、もう後がない。正直団体での10位内はきびしいだろう。

とにかく少しでも順位を上げないと・・・




【挑戦!再び】

ほどなく私の出走時間となった。

・ブレーキング
15mあれば、70kmだって止まれる!
そんなつもりでアクセル全開!
メータ読みで60kmにあわせてブレーキ!
14mほどで無事停止!
速度は57kmであった。
早すぎではあったがまずまず納得のブレーキングで減点ゼロ。
しかし、これは当たり前の結果だ。





・コンビネーションスラローム
ここを接地なしで20秒以内で走る必要がある。
本日一つ目の鬼門だ。

パイロン幅も練習と変わらないようなので接地のみ気をつけて走ればOKだ。
体を入れてバイクを立て、それでいて「いけいけ」で攻めていこう。

「用意・・・スタート!」

良い感じでターンができる。決して早くはないがそんなに遅くもない。
しかし調子に乗ってはいけない。
バイクを起こしながらそれでも慎重に走る。



ブレーキで突っ込もうかと一瞬頭をよぎるが、やはりここはコンマ数秒捨ててでも念には念をいれて安全に止まることに。
すこしだらりとした早めのブレーキで確実に停止した。
「ゴール!」

タイムは?!

20秒008!

しまった!20秒に千分の八秒足りない!5点減点だ!
そう思ったとき、「はい、減点ありません」との声が。

え、そうなの?

どうやらタイムは小数点以下二桁までが有効らしい。
それでも千分の一まで計測するのは、点数が同点だったときの順位決めのためとのこと。
よかった。とりあえず一つ目の鬼門はクリアだ。

※ぴったりというかギリというか(汗)





・傾斜走行(パイロンスラローム)
本日の最大の鬼門はこれだ。
ここを20秒台で駆け抜ける!
しかし、それでも接地は絶対にやってはならない。
安全パイのラインで、それを早回しのビデオのように走りたい。

作戦としてはリア加重でフロントサスをできるだけ伸ばした状態でターンだろう。

「準備はよろしいですか?」
もちろんだ!
「はい、お願いします」

本日一番のお祭りだ、いくぞ!

「用意・・・・スタート!」

バイクを左に右に傾けながらフロントから加重を抜く。
うん、確かに開けたくなる。
思ったラインをトレースするが、無駄なブレーキが多い。
「くそっ!一気に倒しこむかっ?」
いかんいかん、悪魔の策略に乗ってはだめだ。
最後までがまんしながら、少しの直線でアクセルをあおる。



最終ターンを終え、ゴールエリアを見ると遠い!
ここでアクセルを開けたい!が、あけると止まれない!

「がつんがつん」とフロントブレーキをかけ、ゴールエリアに飛び込んだ。

審判が停止線オーバーを確認する。OKだ!

タイムは!
21秒台。くっそー遅い!

しかし、ここでとんでもないことが起こった。
タイムを見てがっかり来たときに、なぜかギアをローに下ろそうと体が動いた。
だが私は傾斜走行をローギヤで走る。ギアチェンジする必要はない。

「そうだ、チェンジしなくていいんだ」そう思ったときにはバイクは軽く右にバランスを崩す。
なんの迷いも無く、右足を軽くついてまたステップに足を戻した。


「あ!右足ささえ!」
審判の声が響く。

しまった!体中から血の気が引いた。

「そ、そうなんですか?」
おそるおそる聞いてみた。

「はい、右足付きましたよね。」

はあ・・・・

周りの音が聞こえなくなる。
なんたる失態!予想より遅いくせに、さらにやらなくてもよいミス。
足つきはいったい何点の減点だろう?

もんもんとしながら次の競技へと移動する。




・コーナーリング
ここは無理しなくてもタイム内には入るだろう。
そう思いながらもオーバーなリーンインで駆け抜ける。


タイムは3.0秒台。予定通り減点なしだ。

しかし、心は右足ささえの減点。いったい何点なのか、こればかり気になる。











《自己嫌悪》

バイクを返却し、福岡チームのもとに戻る。
すぐに傾斜の件を聞かれる。
「ゴールでのあの赤旗は何だったん?」

実はかくかくしかじか、説明をした。
で、右足ささえはいったい何点なんですか?

「足ささえは・・・・・・」
「え?」
「20点減点やね」





















このあと良く覚えていない。

とりあえずにこにと笑いながら、足をついてギアチェンジの真似をすればよかったとか、
抗議すればよかったとかそんなことを言ったような気がする。













これで終わった。


このときの私の感想はこの一言だった。

鈴鹿の青い空が広すぎる。その中にちっちゃな自分がぽつんといる。





終わった。






今回、私は県大会二位だった。

代表は特練の成績で決めるとなってはいるが、それでも優勝者を抑えて別の人を代表に選ぶのは、
コーチにしても安協にしても苦渋の選択である。

県大会優勝者を代表にするのは簡単な話だ、理由が簡単につけられる。
しかし、二位の人間を代表にするためには苦しい理由付けと責任の所在が必要だ。
が、「彼のほうが上位を狙える」この話を上にして私を選んでくれたのだ。

笑って送り出してくれた優勝者。「TAKAさんのほうが適任です。がんばってください」と握手までして送り出してくれた。

去年の成績もあり、みんな期待していた。

チームの中では最年長で最多出場、それに一般Bの私は自分で「キャプテンだ」と言い聞かせてきた。
自分がしっかりみんなを引っ張っていかなきゃいけないと・・・

それが何だ、この失態は。

右にバランスを崩したとき、その気になればいくらでもリカバーできたはずだ。
それをまったく何気なく着いた足で安協やコーチ、サポートの人や仲間たちの夢をぶち壊した。

いままで我慢していた自分への怒りがこみ上げてくる。
そもそも昨日の減点は何だ?昨年は満点だったのに、この一年何やってたんだ。
ぬるいミスばっかりしやがって!このへたくそっ!


喫煙所に行き、タオルで顔をごしごし拭いた。
いつもより、強く長く拭いた。






《大会はまだ終わらない》

喫煙所から出てくると顔見知りの選手が何人も声をかけてくる。
みな、私の出来具合を心配してくれる。
半分ヤケな私は「こうこうこんなんでねーもう終わりましたわ」と笑って答える。

あまりに見苦しかったのだろう。横にいたコーチからゲキが飛ぶ。

「ほらほら、まだ大会終わってないよ!はい、走る準備!」


この年下のコーチからの一言、むかつくが(笑)その通りだ。


チームのみんなの元に行く。
どんよりとした空気でみな元気がない。
ここで私が落ち込んでいたら話にならない。

もう順位は気にしない。最後の競技である法規走行をばっちり決めてやる。


最後の最後の競技である法規走行。
特練、いや、この一年の集大成を見せる最後の競技。

何度も何度も炎天下で練習した。
ここで無様な走りを見せてはサポートのみんなに申し訳がない。

よっしゃ!おみやげ(優秀成績)はなくなったけど、ここはいっぱつ満点で2010年の締めくくりと行くぜ!



【大会を楽しむ】

最後の競技は法規走行だ。
正直、先ほどの傾斜走行のショックが消えたわけではない。
が、今落ち込んでもしかたがない。
それは夜になってからでも十分間に合う。

他県の点数はもうどうでもいい。
今は目の前の法規走行をばっちり決めることだ。

「用意・・・・スタート!」
私にとって2010年最後の競技が始まった。
正直、よく覚えていない(笑)

なんかするするとバイクが進み、きっちり濃い確認をした。
考えている暇はない。
朝、みんなで作ったストーリを信じて、その通りにこなしていくだけ。

が、とりあえず自覚症状のあるミスはない(笑)



ゴール、私の大会終了!
なんか肩の荷がおりたというか清々しい気分だ。





早速、一般Aクラスの応援に行く。
一般Aの最終ブロックはスピード系だ。

おお!早い!
ってか早すぎて接地(爆)
残念であることに違いはないが、悲壮感はない。
「ありゃーいくらなんでも早すぎやん!最速なんじゃないの?」
なんか楽しい、素直に言葉が出てくる。
傾斜もまずまず。「完璧やん!」




ゆっくりする暇もなくパレードが始まる。
だが、すこしづつ心に余裕ができてくるのが分かる。

鈴鹿サーキットを走る選手の姿を見ながらふと思う、
「こんなにいるんだ。こんな多くの人が優勝めざして頑張っているんだなぁ」とあらためて関心する。

今ここに私も居るってだけで、そして、この中で優勝を目指して頑張ったってだけでも十分じゃないのか?
そんな気にもなってきた。



パレードが終了すると、「カキ氷が食べたい!」とだだをこねてみる(笑)
「よしおごってやろう!」ということで、ごちになる。

みんなでカキ氷を注文するが、私はそれに合わせて生ビール!
不謹慎ではあるが、もうバイクには乗らないし、自分に対してのご褒美だ。

飲みながらも点数が頭をよぎる。

一日目の減点は20点。
二日目は減点30点。
法規が満点でも合計で950点。
他県の成績は・・・・

いやいや、もういい、どうせ10位内はないだろうし、いまさら心配してもどうもならない。

「そうだ、お土産買わなくちゃ」
少し心に余裕が戻ってきた。やっとお土産に神経が行くようになった(笑)






《え、どうして?》


お土産を買ったあと道に迷い(笑)、結局ヘルメットやブーツを持ったまま成績発表会場へ向かう。

席に着くが、心はもう帰りの段取りを考えている。

まずは団体戦の発表だ。
優勝は東京都!
ここはいつも強い。
だが、出てきている選手は初出場ばかりである。
正直「またあそこですか」という気持ちもあるが、考えてみれば選手は毎回毎回の大会に全力を尽くしている。

過去に何回優勝したかなどは選手にとってはなんの意味もない、むしろ足かせだ。
「優勝が当然」といわれる中でちゃんと結果を出すというのはどんなに大変なことだろう。

さて、団体の発表が終われば、次は個人の発表だ。
個人は一般B、一般A、高校生、女性の順で行われる。
まずは3位から1位までの発表である。

が、私はまったく聞いていない。
「早く終わらないかな」頭の中は別のことを考えている。

「一般Bクラス、第三位は・・・福岡県代表 TAKA2選手!」




??

?!

!!



あれ?今、福岡って言わなかった?

普通なら、発表があるとその県のメンバーから歓声やどよめきが起き、みんなが握手などしながら喜びを分かち合う。

が、福岡はみな黙ったままだ。


「えーっと、今、福岡のTAKA2って言った?」
コーチに聞くと・・・

コーチ:「え、福井じゃない?」
TAKA2
:「でもTAKA2って?」
コーチ:「福井の高山さんじゃなかったっけ?」(爆)

「いや、確か言ったよ」メンバーも気づいた。
周りを見回すと他県の選手が私を指差して「あなたですよ」と笑っている。


あ、やば、いかなきゃ


おもわずステージに向かって歩き出す。
が、まわりを見るとだれも立ち上がっていない。


どうやら先に発表を行って、あとから表彰のようだ(恥)

いやね、県大会では、名前が呼ばれるとガッツポーズしながら前に出て行くというのが福岡流なんですよ(汗)
ってか、説明はあったはずなのに成績発表の式次第説明をまったく聞いていなかった(恥)

で、いたたまれず、一旦席に戻ってくる(笑)。

再度コーチに話をする。
「もしかしたら、ほら、あれ、右足ささえっておまけしてくれたのかなぁ」
どう考えてもそんな訳はない!

だが、20点も減点されて3位のはずもない。

そんなしているうちに「では2位と3位の選手はステージに上がってください」のアナウンスが・・・


首をかしげながら、おそるおそる壇上に上る。
スタッフの人が成績表を持っていたので、これまたおそるおそる聞いてみた。

「すいません、あのー僕、3位なんですかねぇ」

スタッフの方は成績表を開いて、「えーっと福岡の・・・」
私も成績表を覗き込む。
「あ、それ僕ですわ」

スタッフは私を見てにっこり笑い、「じゃ、あなたが三位ですよ」

まじっすか?


お偉方から名前を高らかに読み上げてもらい、賞状を受け取る。
メダルをかけてもらい、副賞を受け取る。
が、「本当かいな?」いまだに納得できない。



しかし、成績表を覗き込んだとき私の点数は965点であることが見えた。

ん、5点?なのか?足ささえはおまけしてもらって、法規が5点減点?



表彰式が終了し、みな、ガッツポーズや賞状をたからかに掲げながら帰る中、
福岡県代表だけは首をかしげながら一番後ろから、すみっこを歩きながら帰ってきた(笑)


コーチに賞状を見せ、「こんなんもらったんやけど・・・」

するとコーチ「ごめんごめん、なんか停止時の足つきは5点やったばい、ここにちゃんと書いてある」


はぁ?


そういうこと?









ってことはまじで私が3位なんやね。







うわぁ・・・
よかったぁ!

面目が立ったぁ!


喜びというより、安堵がわきあがってきた。




俺が三位だ!




そう思って振り返った会場はすでに退場の真っ最中。



勝手に20点減点と思い込んで落ち込んでいただけだった。
ほんと、あほやん。

疑心暗鬼な表彰式はわけの分からない間に終わってしまった。





【安堵】

「さあさあ、時間ないよ!ちゃっちゃと動いて!」
安協さんの声が響く。

実を言うと大会で一番忙しいのは、この表彰式終了から新幹線に乗るまでの時間だ。
まさに分刻みで動く必要がある。

人波に流されるように外に出て、いつものチャペル前で記念撮影を行う。
表彰式の時も写真を撮ってもらっているが、多分不安げな顔してたはず。
しかし、今は「第三位」の顔で写真に写る。

各県の代表からお祝いの声をかけていただく。

「おめでとうございます!」
「いやいや、優勝逃して残念ですねって言ってほしいなぁ」

けらけらと笑いあう。
すこしずつ、TAKA2節が復活してきた(笑)





「はいはい急いで!報告は電車に乗ってから!メールもブログも点数チェックも!
喜ぶのも悔しがるのも電車に乗ってからね!」

余韻に浸る暇もなく、あわててシャワーを浴び、タクシーに飛び乗り白子駅から電車に乗り換える。

名古屋駅では「なんかうまいもんでも食うか!」との話があったが、なぜか喉を通らない。
ということでみんなで「きし麺」屋に入ることに。
私は冷やしきし麺。もちろんビール付きだ(笑)



《回顧》

新幹線に乗り、やっと落ち着いて今大会を振り返る。

お土産(賞状)があって本当によかった。



ちょっとたらればで考えてみた。

もし、一日目が優勝を狙える点数だったとして、
二日目も思い通りだったとして、
それで結果三位だったなら、こんなにゆったりとした気持ちだろうか?
いや、間違いなく悔しさで一杯だったはず。

私の性格上、一位以外で安心するというか、喜ぶということはありえないと思っていた。


「こんな結末もいいかもね」
結果的に法規も満点であった。
炎天下の練習と、それと前日に延々続けたイメトレ、みんなで作った攻略の成果だ。

「三位だけど、最高な三位」ではないか。

勝手な自己判断で自暴自棄にならずに本当に良かった。
「反省はすべてが終わった後。ノーサイドの笛がなるまでは全力!」

そういえば、「諦めたらそこで試合終了ですよ・・・」みたいなことをスラムダンクの安西先生も言ってたなぁ(笑)
身をもって体験した。



しかし、待てよ?

本当によかったで終わっていいのか?
結果的に福岡県は団体12位だ。

私のぽか減点15点。それともうちょっと頑張ればの10点。
これがあれば福岡は10位になっていた。

自分に賞状があったからと言って、ちょっと調子に乗ってるんじゃないか?

実際にはかなり厳しいが、もし私が練習通りの走りができていれば団体目標である一桁に入っている。
もちろん、これにあわせて個人成績も付いてくる。

浮かれている場合ではない。
まだまだ反省点はてんこもりだ!



が、今日だけはゆっくり余韻に浸ろう。



そして、負け惜しみだが胸を張って言わせてもらおう。

「みんな一生懸命頑張ったんだ文句あっか?」と(笑)








暗くなった車窓を見ながらまどろむ。






そうだ、季節も良くなるし、ちょいとツーリングにでも行くかなぁ。

わたしの白(CB1300SF)はツーリングバイクだが、いつも狭いところでローギアだけで走っている。
こいつは新車以来、いまだに本当のツーリングを知らない。
ある意味こいつも被害者だ。



ずっとご無沙汰だったが、ひさしぶりに忘れかけていた本来の使い方でも楽しむか。