蒼穹(鹿児島一泊ツーリング・第五章 旅の終わり)
著作・製作 Hanajinさん  Hanajinさんってどんな人?



鹿児島ツーの最終段階も近づいている。

知覧までの道を詳細に打ち合わせる。

頴娃ICの手前で右折。
知覧喜入線に入り特攻平和記念館に寄る予定。
道雪さんは先に出たということだ。

池田湖から頴娃までの山道は素晴らしいワインディングだった。

途中の峠にさしかかる。
一休み。
地元のライダーに道を尋ねる。
そこから頴娃まで、自由に走ることになった。

解き放たれたように皆飛び出す。

一番後から発進し、次のコーナーを回り終えた時には先発の人たちの姿は見えなかった。
すぐ前にmeiさん夫妻とsugakiさん。

上り坂で3人を抜く。
しかしいくら飛ばしても他の人の姿は見えない。
そのうちにTDKさんが凄い勢いで引き返してきた。
この道ならもう一度走りたいと思う気持ちがよくわかる。

TAKAさんも続いてやってきた。
法定速度の倍以上は軽く出ている。
akutaさんもここぞとばかりいつもの走りだったようだ。
みなローリング族に早変わりだ。

頴娃ICからは大人しく走る。

特攻平和記念館はすぐに分かった。
駐車場の日陰にバイクを止めてソフトクリームを食べる。
紫芋ソフト、バニラ、抹茶と3種類あった。

このツーリングは休憩が多い。
これがいい。
いろいろな話で弾けるように笑いが飛び出す。

こうして同じ場所にいることの不思議さ。
前世からの約束。
前世でも皆どこかで巡り会っていたのかもしれない。
それから今までのことを全て話さねばならないように、話題が尽きない。

特攻平和記念館に行く。
近代的な建物だ。

繰り返してはいけない歴史がある。

若者が自分の意志でなく死を選ばねばならない歴史だ。
その怨念の渦が館内に見える。

ボロボロになった機体。
死を見つめながら南に飛び立って不時着した零戦。
乗っていた若者はどうなったのか。

館内を進むに連れて、皆無口になる。

立ち止まって遺品を見るうちに、みなバラバラになった。
それぞれの思いでそれらを見つめている。
口が重くなる。

私の叔父もニューギニアで戦死した。
彼の遺書が残っていた。
だがそれは破られて封筒に入っていた。
誰が破ったのか聞かないままだ。

古びた遺影は全て艶やかな肌をした若者のものだ。

どんな思いだったのか。
時代の要請だったとしても、若者の死は悲しい。

展示場の入口にある壁画。
燃え尽きようとする零戦から墜落する若者の体を、天女が受け止めている。
慈母観音に似て、母とも恋人とも思われる優しい表情。
自分の命を捧げることの意味を何度も自分に確認させて飛び立ち、帰らなかった多くの英霊。
複雑な思いが心に渦巻いている。

言葉を失ったまま展示場のロビーで皆を待つ。
何が幸福で何が不幸なのか分からない時代になっている。

享楽の種は地上に溢れ、これでもかと我々の目前に花を咲かせている。
その色は何万色にも及ぶ。
こんな時代に生きる我々が幸福か?それは分からない。

自分をしっかりと持って歩めば惑わされることはないだろう。
一つの色の中で死を強制された時代。
それに比べれば・・。

さまざまな思いをそれぞれに抱きながら記念館を後にする。

このツーリングでここを選んで良かったという思いがしみじみと湧いてくる。



時間を見るともう鹿児島市内に寄ってはいられない時刻になっていた。
ここで昼食を済ませることにする。

近くの土産物屋兼食堂に入る。
ビールを少し飲むと猛烈に眠気が襲ってきた。

皆の話が弾んでいる様子が切れ切れに聞こえるが、我慢できずに横になったままだった。

ここから指宿スカイラインに乗る。
鹿児島には素晴らしい道が多いが、やはりここが最高のワインディングだ。

途中の展望台で再び休憩。ここが最後の談話が出来る場所。
赤い吊り橋を渡り四阿で集まってしろくまの話をする。
TAKAさんの思い違いが皆を笑わせる。

あと少し走ればmeiさん夫妻とお別れ。
ドカ氏とBM氏はしろくまに思いが残っているらしく、meiさん夫妻について市内でしろくまを食べて帰るという。

スカイラインから高速に入るゲートの前で再開を約して別れの挨拶を済ませる。
あとは一路福岡へ。




祭の後は寂しい。



そんな歌を拓郎が歌ったのは30年近くも前のことだ。
18の私は祭好きだっ
た。

みんなでバンドを組んで、ギターを弾き、お祭りと聞けば頼まれなくても大騒ぎした。
帰郷して過ごす夏休みの恒例行事だった。

弾けるような笑いもあった。

若いが故の過ちで、人を傷つけたこともあった。
それをいつも見守ってくれていた紺青の空と灼けつく太陽。
もう戻らない青春だが、灼かれるのはあれで十分だと思っていた。

だがどこかにまだ私の若い日の残り火が埋まっていたのだ。

バイクに乗り始めたのもその埋み火が燻り、ちょろちょろと炎を上げ始めたからなのかもしれない。

祭の後の寂しさを感じるのも何十年ぶりのことか。

旅は最終章に入った。
必死で飛ばす。

手足が痺れるほどの振動。
車には負けられない。

つぎつぎと追い越す。

歳を考えろ、と何かが囁く。
そんな馬鹿なことをいう何かを振り切ろうとさらにスロットルを捻る。

私の上から宇宙へと続く蒼穹が見下ろしている。


終わり